生活福祉研究通巻97号 巻頭言

人生100年時代における国際金融の見方

大場 智満
国際金融情報センター 元理事長
当研究所顧問

老後の生活資金と貯蓄

明治安田生活福祉研究所の「人生100年時代に向けた意識調査」は、精読に値する優れた調査である。筆者も健康に留意しつつ、100歳までどのような生き方をするか考えさせられた。また筆者の興味をさそったのは、老後に必要とする生活資金の額が筆者の想定より高かったことである。調査対象者がどのくらいの貯蓄をしているかについても、筆者の予測を上回っていた。

このような調査結果を見ると、長生きをする人々が定年後も働きながら貯蓄を増やし、それをどのように運用するか苦労されるのではないかと思った。

外貨資産運用における留意点

筆者の若年時代、資産運用は不動産・預金・株式に3等分するのが良いという意見を聞かされてきた。当時の資産運用はもとより国内の運用に限られていたが、現在ではかなり多くの人が外貨資産の運用を考えるようになってきている。

外貨資産への投資・運用について私見を述べたりアドバイスしたりするつもりはない。しかしドルやユーロへの投資が大宗を占めるようになっているので、若干の留意点を書いておきたい。

まず金融資本市場に影響を与える米国・中国の貿易摩擦、覇権争いなど国際情勢に関心を持って欲しい。ドルやユーロの為替相場に関心を持つことは当然であろう。

国際情勢については2017年2月の本誌で、AMERICAのAdministration(政府)、BRITAINのBrexit(EU離脱)、CHINAのComplacency(自己満足)に触れたが、この2年間での変遷には目を見張るものがある。

米国政府の3G政権として、将軍(General)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、大富豪(Gazillionaire)の登用が多いというクレア・マカスキル上院議員の揶揄を取り上げたが、すっかり変わってしまった。元将軍のケリー大統領首席補佐官、マティス国防長官を始め将軍はいなくなったし、ゴールドマン・サックス出身のコーン大統領補佐官もやめてしまった。ムニューチン財務長官と大富豪のデボス教育長官、ロス商務長官が、残っている数少ない閣僚である。アメリカ第一主義を推し進めているトランプ大統領にとって、政策を検討し、打ち出す時にマイナスになるのではなかろうか。

英国の「EU離脱」は、EU委員会との合意がアイルランド問題で解決が難しくなっている。中国の「自己満足」は、Cold war(冷戦)に置き換えたい。なおEUはEmigration(移民)が、深刻な問題となっているし、FranceはFinance Union(財政統合)に意欲を燃やしている。

これらの問題のなかで、世界の景気、GDPに大きな影響を与えるのは、米・中貿易摩擦、覇権争いの行方ではなかろうか。両国間の関税の争いが激しくなった場合には、最大で成長率を中国1.7%、米国1.0%、世界0.8%低下させるというIMFの試算がある。

今後の国際情勢と為替相場の行方

今後の円・ドルレート、円・ユーロレートについて触れておこう。筆者の友人で高名なエコノミストは2019年末の為替相場を1ドル=110円~115円、1ユーロ=120円~130円と予測している。米国連邦準備理事会(FRB)の金利の引き上げ、欧州中央銀行(ECB)と日本銀行の金融政策を考慮し、さらに為替相場に影響を与える国際情勢の影響についても検討したうえで出した予測であろう。特にトランプ大統領の発言や米・中貿易摩擦、覇権争いの成り行きなどを総合的に勘案したのであろう。

1月25日時点の国際金融情報センターによる6カ月後の為替予測は、1ドル=103円~115円、1ユーロ=120円~135円と幅がある。これは、有力金融機関(明治安田生命を含む)、有力企業のエコノミスト24人の予測である。予測が分かれるのは、米国連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行の金融政策の見方や今後の国際情勢の推移について見解が分かれているからであろう。

いずれにせよ、人生100年時代、今後の国際情勢と為替相場に注視し、関心を持っていきたい。