生活福祉研究通巻96号 巻頭言

介護報酬改定と地域包括ケアシステムの深化

田中 滋
埼玉県立大学理事長
慶應義塾大学名誉教授
当研究所特別顧問

2018年度介護報酬改定の特徴の一つは、「機能に応じた支払い」である。ちなみに「機能を反映しない支払い方法」とは、例えば通所介護や老人保健施設などといった事業ジャンル毎に、要介護度や時間等別に一律の単位数をあてはめる報酬と表せる。現実の改定は、そうした一律方式ではなく、機能に応じた多段階の加算等を設け、同じ事業種別であっても、機能が高ければ段階的に評価するあり方が、前回改定よりさらに強化された。

典型は、老人保健施設評価の一つとして新たに導入された「在宅復帰・在宅療養支援等指標」である。90点満点のうち何点とれたかは施設管理者や法人経営者・事務局も把握できるし、あと何点とればより上位の評価を得られるかがわかるので、努力しやすくなったと考えられる。

医療と介護の接点に関しては、入院時には居宅介護支援専門員(ケアマネジャー)から医療機関への情報伝達、退院時には病院側から在宅側等への情報伝達について、これまでの評価を一層強化する報酬となった。入院時には在宅生活のデータが伝わること、一方入院した後は退院後の生活に向けて、ケアマネジャーを通じて介護チームと情報が共有されることが目指されている。

生活維持期のリハビリテーションは、活動する能力を高めて社会に参加する姿が目標であるが、維持期リハビリテーションについても成果指標の客観的な測り方が存在する。バーセルインデックス(基本的生活動作)やFIM(機能的自立度評価表)などの指標を用い、プログラムに基づいて、3か月後の成果評価を行える。今回、こうした指標に基づく評価が通所介護にも導入された。今後、成果指標を活用して、介護の質を評価する研究と、実際の取組みが共に進展するよう期待している。

また、看取りに関しては、以前よりも医療サービスが行いやすいよう工夫がなされた。特別養護老人ホームにおける看取りの多くは、がんやアルツハイマー、老衰などの末期が対象であり、1か月ほど前からターミナルの状態とわかるケースが増えてきたと報告されている。これらの場合には、プログラムに基づく尊厳ある看取りが望まれる。2025年から2040年にかけては死亡者数が最も多くなる時期なので、今から仕組みを整えていく必要がある。

ここから地域包括ケアシステムに話題を移す。地域包括ケアシステムは、最初は「医療ニーズを併せ持つ要介護者が、施設・在宅・居住系を問わず、日常生活圏域において切れ目のない連続的かつ包括的な医療介護による支援を受けるにはどうしたらよいか」から検討が始まった。

今では要介護者・要支援者に対し、医療介護連携だけでなく、リハビリテーションや栄養改善、口腔ケアなども含め、多職種協働の推進が広く理解されるに至った変化は大変喜ばしい。

さらに、2018年現在の地域包括ケアシステム概念はもっと広く、予防はもとより、多世代共生を上位目的として、多様な人々が地域で暮らしていくための仕掛けも視野に含まれている。出かけていく場所が設けられているか、人とつながる場所があるか、買い物をしやすいかなど、まちづくりの観点も重視されるようになった。

なお、まちづくりを展開する上で、これまでの地域包括ケアシステム論の中では社会福祉機能の位置づけが足りないとわかってきた。もし閉じこもりの原因が隣近所との関係性の悪さや貧困などだったとしたら、医療職・介護職はそれに対処する専門訓練を受けた専門職ではない。こうした課題に対しては社会福祉技法の修練を積んだ社会福祉士などが機能を発揮すべきである。ソーシャルワーク、コミュニティワークの力を持つ職種が入ってこないと地域包括ケアシステムは完結しない。

社会福祉の仕事は2段階に分けられる。困難を抱える個々人や個々の家庭に対する対人援助技術レベルの仕事はわかりやすい。しかし、困難を抱える理由の半分は、地域の問題、社会生活の問題であろう。孤立する理由は住まいの問題かもしれないし、交通手段や買い物の方法がないためかもしれない。そうすると地域でどう解決していくかと問題設定する見方が大切になる。子ども食堂は典型例である。子ども食堂によって孤立している子どもに社会性を持たせる働きかけができる。そういう取組みがソーシャルワークの例としてあげられる。また地域包括ケアの考え方は児童福祉や障害者福祉の分野にも広がりをみせている。

多職種協働の主体は、基本的には医師や看護師、介護福祉士、そして上で指摘した社会福祉士などのプロフェッショナルだろう。一方、まちづくりの主体は、市町村など行政がコーディネートするにしても、住民に他ならない。多世代共生に向かうためにもこうした広がりは必須である。