生活福祉研究通巻91号 巻頭言

人口減少対策としての移民政策

大場 智満
当研究所顧問

2016年の世界経済の見通し

2016年の日本経済・世界経済は厳しい。2015年に比べ、悪化するのではないかという見方もある。たしかに米国の伝統的金融政策への復帰、すなわち金利の引き上げ、中国の経済成長の鈍化、そして、欧州のテロ対策、難民・移民問題の深刻化が見られる。

米国の金利引き上げにより、新興国・途上国における資金流出が懸念されている。また、中国の成長率鈍化は、先進国を含め世界経済に悪影響を与える。中国の成長率が1%ポイント低下することで、世界経済全体の成長率が0.3%ポイント低下すると見られている。

難民・移民問題

今回はドイツの難民・移民問題に焦点を当ててみる。過去10年間の欧州全体の労働力人口増加の70%は移民によるものとされている。少子高齢化が深刻なドイツは移民を受け入れて、人口増加を図るという方針をとってきた。

ドイツは1960年代にはトルコとの2国間協定により、年間100万人の労働者を受け入れ、その後オイルショックにより受入れ人数を縮小したという過去がある。また、東西両ドイツ再統一の前後には制度を整備しないまま移民を受け入れた結果、単純労働者の移民が増加した。

最近ではシリア難民が難民・移民全体の40%を占めると言われている。しかし、未だ受入れ制度が整備されていないこともあり、ドイツ人労働者との間で摩擦が生じ、社会保障費も増加している。ドイツの移民政策は少子高齢化による人口減少、GDPの低下を避けるための政策として採用されてきた。

しかし、年々10万人もの移民を15年間という長期にわたって受け入れるという方針を巡っては、論争が起きている。まして、2015年には、ドイツへ流入するシリア難民などの難民・移民は110万人にも達した。また、2016年1月、トルコのイスタンブールにおいてドイツ人がテロによって殺害された。

このような状況があり、これまで移民を積極的に受け入れてきたメルケル首相への批判が日増しに強くなりつつある。メルケル首相は2015年12月の与党(CDU)の大会で、難民・移民受入れ政策の修正を約束し、受入れ人数を抑制していく方針を明らかにした。

日本も移民受入れ検討の時期

日本について、国連は2050年の人口を1億700万人と見込んでいる。出生率については、2020~2025年が1.51、2045~2050年が1.69と上昇すると見ている。日本は、2015年も2050年も変わることなく世界有数の人口減少国・超高齢化先進国であり、65歳以上人口の割合は、2015年の26.3%から2050年には36.3%になると予測されている。

厳しい財政状況のもとでは、社会保障給付のあり方を検討するとともに、直接税重視の税負担を見直し、消費税重視の税負担にシフトすることが避けられないのではないかと思われる。

現在の日本は難民問題が厳しくなかった頃のドイツのように、単純労働者として移民が流入し、自国民の労働者が高度分野へシフトし、賃金の上昇が期待されるような状況にはない。しかも、日本は他国と比べて難民・移民受入れには、とりわけ強い抵抗感があると言われている。しかし、人口の減少・GDPの低下を防ぐためには、日本も移民の受入れを真剣に検討すべき時期に差し掛かっているのかもしれない。

(国際金融情報センター 前理事長)