生活福祉研究通巻90号 巻頭言

介護分野の変化:2025年を見据えて

田中 滋
当研究所特別顧問
慶應義塾大学名誉教授

介護と医療は「連続生産工程」

今から50年前、急性期病院の病棟は、大部分が短期介入対象者によって占められていた。入院中に認知機能が低下する恐れや、IADL(注1)が悪くなる事態に対する方策も考える必要がほとんどなかった。

今、急性期病院では、そのような古典的な入院患者の姿はほとんど見られない。現在では入院患者の過半から4分の3が高齢者となり、それらの患者は長期的で継続的なケアニーズも抱えている。75歳以上高齢者は、入院中に認知機能、ADL(注2)、IADLが低下し、長期的なニーズを抱えた状態で退院せざるを得ないケースも珍しくない。そうした患者が増え、「元の日常生活に戻れる退院患者率」で見ると急性期病院のパフォーマンスが低下してきた。

このような変化を受けて、急性期医療を提供する病院も「一連の医療・介護連続過程」の一環であるとの認識が広まりつつある。在宅医療に代表される生活医療こそが医療の中心となる時代に変わったと捉えられる。

わが国の製造事業者が得意としてきた連続工程間の進捗管理が、介護・医療の世界でも重要になった。製造業でも、各工程がそれぞれ効率的であることは、全体も効率的となるための必要条件とはいえ、十分条件ではない。工程と工程の間に部品がどこかに積んでおかれる期間が1週間あるようでは全体が非効率となるからである。連続工程では、一連の流れのプランニングに基づく工程間のインターフェイス向上、目標の共有が鍵と言えよう。

介護・医療も今、それに近くなった。第1工程が居宅介護側や開業医のケースもありえるし、急な発症により急性期病院から始まるケースもある。いずれにせよ、急性期医療だけでは必要な過程は完結しない。介護だけでも、在宅医療だけでも完結しない。病院、診療所、老人保健施設、特別養護老人ホーム、通所・訪問サービス、居宅介護支援事業所等々の間でのスムーズなインターフェイスと目標共有が問われる時代である。

  1. (注1)Instrumental Activities of Daily Livingの略。買い物など日常生活上の動作のなかで複雑で高次な行為を指す。手段的日常生活動作と訳される。
  2. (注2)Activities of Daily Livingの略。食事など日常生活上、普通に行う行為を指す。日常生活動作と訳される。

地域包括ケアシステムの中心概念は「統合」

地域包括ケアシステム構築の主なツールの一つは、既存資源のネットワーキング技術である。新しいものをたくさん作らなければいけないわけではない。

ネットワーキングにかかわるキーワードが「統合」である。統合もいろいろな種類に分けられる。①医療職と介護職が予後予測を共有するなどの臨床的統合、②役所の「地域包括ケア推進室」や、急性期医療機関と回復期医療機関の戦略的提携等が代表する組織的統合、③そこで果たされる人材管理、情報管理、予算などの財政の連携にかかわる機能的(運営的)統合等が例である。

以上を支え、つなぐ機能を規範的統合と呼ぶ。「理念と目標を明確化し、それを関係者が共有すること」を意味する。

在宅ときどき施設

介護・医療の施設は、これまで発達させてきたケア機能を自事業所内の利用者に提供するにとどまらず、地域に展開していく姿勢が求められる。手段としては日常生活圏域にサポート拠点を持つ、もしくは他者が作る拠点を共同利用するなどの方法も使ってもよい。サポート拠点とは、臨床的機能のほか、相談機能を備え、認知症者など要介護者と家族および住民の交流拠点として利用される場所を指す。名称は地域ごとに自由につけてしかるべきである。

機能を地域展開する上位目的は、「在宅か施設か」という「二分法思考の桎梏」からの脱却である。ここで言う施設には病院を含む。利用者の側から見れば、「在宅ときどき施設」「(ケースによっては)在宅、最後は施設」が目指す姿となろう。