生活福祉研究通巻88号 巻頭言

地域包括ケアシステムと地域看護機能

田中 滋
当研究所特別顧問
慶應義塾大学名誉教授

地域包括ケアシステムの基本構造

わが国の医療・介護提供体制は、2025年を目標年とし、従前とは深さの異なる機能統合を図っていかなくてはならない。目標は「ケア付きコミュニティの広がり」と表せる。完成形は、虚弱高齢者が生活するそれぞれの自宅(集合住宅への住み替えを含む)をも病床や施設内個室に見立て、老人保健施設や開業医、訪問・通所サービス、地域密着型サービス、さらには生活支援に関わる企業やボランティアなどのさまざまな社会資源を、適切なケアマネジメントが組み合わせて利用者を支えるあり方である。

基盤としては「安心感に支えられた本人と家族の心構え」が求められる。その上に、「住まいと住まい方」を個々の高齢者が定め、地域は「生活支援と福祉」を構築していく。以上が成り立ってはじめて、「医療と看護」「介護とリハビリテーション」「保健と予防」等の専門機能が活きる。これが地域包括ケアシステム…Community Based Integrated Care System…の基本構造に他ならない。

地域看護機能強化のために

圏域ごとのケアを進化させる制度ツールの代表には地域ケア会議があげられるが、圏域の機能統合を図る鍵としては、地域看護(Social Community Nursing)を担う人材の確保が不可欠である。現在、地域看護が果たす現場機能は訪問看護によって担われている。ただし、訪問看護に従事する看護師数、もしくは訪問看護ステーション数が足りないという声は多い。その解決策は、一般に言われるような訪問看護師数および訪問看護ステーション数の増加や、看護を専門に行う法人の規模の拡大だけではないと考える。

そもそも訪問看護は、看護師が受け持つ業務の名称であり、職種や法人種別を示す呼称ではない。病院医師が、入院医療や外来診療を日の一部の時間に担当しつつ計画に合わせて手術を行ったり、場合によっては週の一部の時間に訪問診療も手がけたりする例はよく見られる。訪問医師という職種は存在しないことは、皆が当たり前のように知っている。同様に看護師が、日・週・月・年の一定割合を、業務の一環として訪問看護にあてる勤務形態が日常化すれば、訪問看護に専念する看護師や、独立経営体としての訪問看護ステーションの増加を図るよりも早く、訪問看護従事延べ時間数を増やせるはずである。

訪問看護ステーションを経営の単位と考え続けるかぎり、看護師は医療機関を辞めることにより医師との物理的・精神的距離が遠くなってしまう。なかでもステーション開設者は、開業資金や運転資金の調達と返済、顧客獲得のための営業活動、人材採用や給与計算、保険請求等々の(病院勤務であれば専門の管理部門が担当するはずの)業務に時間を割かなければならない。地域で確保すべきは、訪問看護という業務に従事する看護師の時間数であって、居宅等を訪問する看護師が、どこに属しているか…病院や診療所、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、小規模多機能居宅介護やグループホーム、そして大きな法人の訪問看護部門等々…は本質的な問題ではない。

このように、訪問看護機能を多様な従事形態によって確保し、ケアマネジメント過程とのシステム統合を図りやすくする、すなわち地域看護機能を受け持ちやすくする一方で、訪問サービス機能の一部をリハビリテーション、栄養ケア、口腔ケアなどに関わる他のプロフェッションも担う形態をめざすべきではなかろうか。

さらには各種機能の統合的確保を

制度論のレベルでは、日常生活圏域における各種機能の統合的な確保を行いやすくする方策を検討する必要がある。予防を含めると40以上にのぼる現在の介護保険給付対象の事業種別ごとに人員配置基準を定め、経営実態調査を実施し、収支を人為的に計算させて把握しようとする方式は、地域包括ケアシステムの概念と整合的とは言い難い。

典型的には、地域包括ケアシステムの柱として期待が集まる定期巡回・随時対応型訪問介護看護も、小規模多機能型居宅介護も、まさに業務管理の単位であって、経営の単位とは規模感が異なる。定期巡回・随時対応型サービスをも提供する事業体が、全体として利用者や医師の信頼を獲得し、あるいは特養待ち高齢者や家族の生活を支え、長期で見た法人全体の経営に資するかどうかを見るべきであって、単独事業収支で参入を判断すべきジャンルの業務ではない。

看護師をはじめとする専門職者は、日常生活圏域において確保されていればよいタイプも存在する。定期巡回・随時対応型訪問介護看護や複合型サービスにおける訪問看護師確保問題も、このような見方で捉えたほうが発展を図りやすい。

旧来の事業種別によるサービス提供継続を望む事業者の意向を否定するものではないが、必要とされる各種の訪問サービス機能を併せ持つ「地域包括ケアステーション」や、より広いケア機能を統合した「地域包括ケア事業所」等を試みる事業者の出現を望んでいる。さらには介護報酬において、選択性による包括支払い方式も実験すべき段階と思われる。