生活福祉研究通巻83号 巻頭言

株高、円安は続くか
- 米国、ユーロ圏の状況を中心に -

大場 智満
当研究所顧問

日本の株高、円安

わが国の金融資本市場は、株価の上昇、円安を歓迎している。世界的にみても日本のような株価上昇と自国通貨安が同時に起きている国は少ない。米国、ユーロ圏は、株高、ドル高、ユーロ高となっている。米国に近いメキシコ・ブラジル・チリなども株高、自国通貨高を示している。

わが国の円安については、本誌2011年12月号に弱い日本になってしまったのでいずれ円安になると書いた。昨年末から円安が進んでいるのは、政権交代による政策の変更にある。しかし、2度の石油危機の年を除いて1965年以降続いてきた日本の貿易黒字が、エネルギー価格や食糧品価格の上昇によって2011年後半から赤字になってしまっていることが大きく貢献していると思う。また、ドル・ユーロを強くする要因が、金融資本市場で認識されるようになったことも大きい。

米国の状況

米国では、オバマ大統領・バイデン副大統領、民主党と共和党の間でミニディールとみられる合意が1月1日になされ、法案化されて上下両院で可決された。この合意によって、2013年1月に予定されていた減税措置(ブッシュ減税)の失効に伴う全世帯への増税(平均世帯で年間約1,000ドル)が回避された。また、2011年8月2日に決まった10年間で1.2兆ドルに上る自動歳出削減措置の発動も回避された。

しかし、残された課題をこれから毎月解決していかなければならない。米国は2月末に自動歳出削減措置、3月下旬に2013年度暫定予算の期限切れによる政府シャットダウン危機、5月中旬に債務上限引上問題による米国債のデフォルト危機に直面することになる。これらについてオバマ大統領・バイデン副大統領、民主党と共和党の交渉が行われることになる。増税を含むミニディールについては保守系の共和党議員の間に不満が高まっており、また大統領のリーダーシップの欠如について批判がある。このような政治状況の下で上記の危機が解決されていけば、株価・ドルレートの安定につながると思う。しかし、財政赤字削減が大きいときは、市場の株・為替相場の安定に向かうと思われるが、成長率の低下をもたらすとの予測もある。

ユーロ圏の状況

ユーロ圏では、2012年1月から8月にGDPの20%、4,000億ユーロがイタリア・スペイン・ポルトガル・アイルランド・ギリシャから流出した。2011年の3,000億ユーロを加えると7,000億ユーロになる。ところが、2012年9月から12月の4カ月間に1,000億ユーロがこれらの国々に戻った。ユーロ圏の株価・ユーロレートを考えるにあたっては、上記の資本の流出入のほか、今後の政治状況をみていかなければならない。特に2月のイタリアの総選挙と9月のドイツの総選挙に注目したい。メルケル首相といえども選挙に勝つためには、国民の反ギリシャの意向を無視できなくなるおそれがある。いわゆるポピュリズムに陥ると、株価・ユーロレートは安定を欠くことになる。

本誌で前号まで繰り返し述べてきたように、ユーロ圏は経済統合の最終段階であるが、政治統合はその第一歩を踏み出したにすぎない。今後政治統合がどのように進められていくかがユーロレートに影響する。その意味で2013年は株価・ユーロレートともに乱高下する可能性がある。

株高、円安に対する欧米の見方

米国、ユーロ圏における政治経済状況が、日本の株高、円安に影響することは上述のとおりであるが、欧米、中でもドイツ連邦銀行のヴァイトマン総裁とウェーバー前総裁が日本銀行とインフレ目標の設定に関して懸念を表明していること、特にウェーバー前総裁が「日本の現在のジェネレーションは、将来のジェネレーションの犠牲の上に生きている」と批判しているのが気にかかる。

輸出業界は円安を歓迎しているが、ドル建の輸入が70%を占めている輸入業界は円安を懸念している。エネルギーや小麦、トウモロコシをはじめとする食糧品などでは輸入価格が上昇をはじめており、物価高を招く可能性がある。

1973年に為替相場が「固定相場制」から「変動相場」に移行して今年で40年になる。この40年間、主要国の政治経済状況を反映して為替相場は変動を繰り返してきた。40年という節目の年を迎えた2013年も為替相場や株価から目の離せない年になりそうである。

(国際金融情報センター 前理事長、岩谷直治記念財団 理事長)