生活福祉研究通巻60号 巻頭言

2007年の国際経済と国際政治

大場 智満
当研究所顧問
国際金融情報センター理事

2007年の国際経済

2006年9月から12月にかけて発表されたIMF、OECD、EUなどの07年のGDP見通しは、一様に06年の成長率を0.5%前後下回るとみている。06年のGDP成長率は、アメリカ3.5%、ユーロ圏2.7%、日本2.5%がほぼ共通した実績見通しである。

07年も前年と同様、金利と石油価格から目が離せない。しかし、05年、06年と大きく上昇してきた金利と石油価格は、07年は比較的安定した動きをみせるのではなかろうか。

アメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)は、金利水準を据え置いたまま、しばらく経済諸指標の推移を見守っていくものと思われる。ECB(欧州中央銀行)は金利を引き上げる可能性を残しているが、一部の国の蔵相がユーロは強すぎると批判していることもあり、簡単には上げられないだろう。

石油価格に関しては、本誌昨年4月号の巻頭言に、需要サイドの要因と供給サイドの制約について書いたが、この事情は今も変わっていない。中東やアフリカなどにおける安全保障リスクも無視できない。また、日本の金融政策の変更により、世界の資金流動性は縮小する方向にある。これらを考えあわせると、高価格は持続するものの、昨年や一昨年のような大きな動きはないとみられる。

2007年の国際政治

政治に関しては、主要国はいずれも内政指向になると思われる。

アメリカは06年の中間選挙においてブッシュ政権の共和党が敗れた。最大の政策変更はイラク政策の見直しであろう。ベーカー=ハミルトン委員会の提言を受けて、ブッシュ政権は苦しい政策を選択せざるをえまい。内政指向の重点は、財政赤字削減、医療制度改革、年金制度改革などであるが、上下両院で民主党が多数を占めている状況では、08年の大統領選挙まで大きな動きはないとみられる。

94年の中間選挙は今回とは全く逆で、民主党が上下両院で敗れた。そのため、ヒラリー大統領夫人が力を入れていた医療制度改革は実現しなかった。しかし、医療制度改革プロジェクトで得た幅広い見識と優れた分析は、もし民主党政権ができれば、新政権の医療制度改革に生かされるであろう。

財政赤字削減については、一両年は注目すべき変化は生じないとみられる。

ヨーロッパでも、ドイツとフランスはいずれも内政指向を強めている。ドイツは財政赤字削減、年金制度改革、労働市場改革に取り組んでいる。フランスも、財政赤字対策と労働市場の改革に力を尽くすとみられる。

すでにドイツでは、メルケル連立政権が与党の社民党を説得して、財政赤字削減のため、付加価値税の税率を16%から19%に3%引き上げた。この1月から施行されたが、個人消費に思ったほど大きな影響は出ていない。

労働市場政策については、後述するフランスと同じ方向で進められているが、国民の間にコンセンサスを得ることは難しいと思う。年金制度改革については、年金の支給開始年齢を18年間かけて65歳から67歳に引き上げる方針で進んでいる。

フランスについては、4月に大統領選挙があることもあり、思いきった財政赤字削減政策はとれないであろう。大統領候補のサルコジは、財政収支の均衡実現を2012年に先延ばしすることを公言している。また、社会党のロワイヤルが政権を獲れば、財政支出が増えることは目に見えている。

年金、医療、介護といった社会保障問題については、高齢化や医療技術の進歩による支出の増大にどう対応していくのかがはっきり見えてこない。

労働市場政策としては、週35時間労働制の導入、最低賃金の引上げが行われ、労働コストは高くなっている。その上、政府の緊急雇用対策が、学生団体、労働組合から激しい反発を招いたことは記憶に新しい。フランスでは正規就労者は手厚く保護される反面、それ以外の者が正規の仕事に就くことは困難である。このため、若年者雇用を促進しようと、政府は初期雇用計画を打ち出した。雇用促進の意図はみえるものの、この労働市場改革は容易ではない。

以上のように、主要先進国はいずれも財政赤字削減、社会保障制度の改革など共通した課題を抱えている。しかし、アメリカは、2008年の大統領選挙まで大きな変化は望めない。フランスも与野党拮抗が予想される4月22日の大統領選挙までは改革は期待できず、また、いずれが勝ったとしても、大きな変化は望めないのではなかろうか。