あじさいと黒土
大場 智満
当研究所顧問
国際金融情報センター理事
あじさいの色と土壌の酸性化
あじさいの季節が終った。
今年も明月院のあじさいを見ることもなく、庭に咲くあじさいに目をこらした。
ブルー系のあじさいのブルーが濃くなっているか、赤系の花が色変りしていないか観察した。
この20年間、ブルー系の花色が鮮やかになっていったのは、庭の土壌が酸性化したことによる。
恐らく酸性雨が原因であろう。長距離輸送で中国大陸から、短距離輸送で西からきた酸性雨のおかげである。
あじさいの色が鮮やかになったなどと、土壌の酸性化を喜んではいられない。小さな庭は北アメリカやヨーロッパの穀倉地帯と同じく黒土である。この黒土地帯の劣化が進み、砂漠化の危険すら語られるようになっている。
土地の劣化をもたらしている森林の伐採や草原の砂漠化はとめたいものである。
北米大陸、ミシシッピー川流域の土も、ヨーロッパ大陸、ボルガ川流域の土も、肥沃な黒土が表土となっている。
この肥沃な土壌が劣化しつつある。
黒土は200万年の長い期間を経て形成された。それが僅か200年で肥沃さが失われつつある。
この200年の間に、森林は伐採されて農地となり、草原は無秩序な牛、馬、羊の放牧で荒れてしまった。森林の伐採で保水力が失われ、それがミシシッピー川の水量の減少につながっているといわれている。荒れた草原は川を浅くし、大雨になれば下流のはんらんにつながる。
昨年のハリケーン・カトリーナによるニュー・オーリンズの水害は、ハリケーンが主因であろうが、ミシシッピー川の変容も原因となっているのではないか。
黒土と環境問題
福澤諭吉のジョーク集「開口笑話」に「アメリカの森林」のジョークが取り入れられている。
「政治の発達した国は、アメリカの森林のようである。なすべきは老樹を切り倒すのみ。老樹除けば新樹はすぐにその跡に繁茂すべし」
これはウオルター・パジョット氏の比喩を引用したものである。
ウオルター・パジョットは、1826年英国に生まれ、1877年にその生涯を終えている。ロンドンの「エコノミスト」誌の編集長もした論客である。その論客がアメリカの森林は伐採しても再生可能で復元できると考えていたことが分る。
19世紀中頃では森林の減少や土壌の劣化は、環境問題として意識されることはなかったことがみてとれる。
森林の減少や草原の劣化を放っておけば砂漠化につながる。その対応策は、1992年にリオデジャネイロで開催された「地球環境サミット」で、多国間の議論が始まった。
世界的な環境問題への対応は、関係国や国連、IMF、世銀、アジア開銀等の国際機関の努力に任せることになる。地球温暖化対策はもとより、土壌の砂漠化対策についても米国や中国が、より積極的な対応をすることを期待したい。
小さな庭のあじさいの花の色を変える土壌の酸性化にも小さな努力を積み重ねることが求められる。ぼたん、しゃくやくなど土壌の酸性化に弱い花木や草木の根元に石灰をまいて酸性化を中和している。
さらに、黒土地帯が落葉や木や草の腐植で形成されていったことを想起し、落葉を集めては穴を掘って埋めている。ささやかな復元をはかっている。