生活福祉研究通巻57号 巻頭言

2006年の2つのリスク
- 金利の上昇と石油の高価格の持続 -

大場 智満
当研究所顧問
国際金融情報センター理事

CIAOのリスク

前号で、2006年は国としてはアメリカと中国に注目しなければならない、国際経済問題では、金利の上昇と石油の高価格の持続が各国の成長率を低下させるリスク要因であると書いた。アメリカ、中国、金利、石油価格の頭文字を取ると、トリノオリンピックでよく使われた“CIAO(チャオ)”になる。つまり、「C」は「China(中国)」、「I」は「Interest rate(金利)」、「A」は「America(アメリカ)」、「O」は「Oil price(石油価格)」である。財務省の財務官は、より広い視野から「A」は「Avian flu(鳥インフルエンザ)」だと指摘している。

今回は、金利については米連邦準備制度理事会(FRB)議長がグリーンスパンからバーナンキに交代したこともあり、アメリカの金融政策がどう変わるか考えてみたい。石油価格についても、前号であまり触れられなかったので説明を加えておこう。

アメリカの金融政策

アメリカの金融政策の舵取りは、グリーンスパンからバーナンキにバトンタッチされた。ある英国紙に、リレーのバトンタッチの場面を描いた漫画が掲載された。火のついたダイナマイトを手渡そうとするグリーンスパンと受け取ろうとするバーナンキの後ろ姿の構図である。

3月末にバーナンキ議長の下での最初の連邦公開市場委員会(FOMC)が開催された。そのステートメントでは、「当委員会は、持続可能な経済成長及び物価の安定を同時に達成しようとする場合のリスクをほぼバランスの取れた状態に保つためには、一段の金融引き締め政策が必要になるかもしれないと判断する」と述べられている。この表現は前回1月末のグリーンスパン議長のステートメントと同じである。つまり、バトンタッチのバトンはダイナマイトではなく普通のバトンだったのであり、バーナンキ議長は的確に受け取って走っていることが読み取れよう。次回5月のFOMCでも利上げが実施されるか注目されている。

ユーロ諸国もそのうちまた金利を上げてくるだろう。問題は日本である。量的緩和政策の解除がすでに実施され、30兆円の日銀当座預金は、近く6兆円プラスαに減少するとみられている。したがって短期金利は秋から上昇していくであろう。

石油の高価格の持続

石油価格の高騰が続いている。その理由は3つあると考えている。

第一は需要サイドの要因である。石油需要の増大については、中国の消費量の増加がさかんに喧伝されているが、実は景気回復に伴い先進諸国の需要が高まっていることも大きな要因になっている。

第二の要因は供給サイドの制約である。需要が増えているにもかかわらず、供給量はあまり伸びていない。サウジアラビアを中心とする産油国全体の余剰生産能力は、今年も来年も日産約200万バレルで変わらないとみられており、増産余力はそれほど大きくはない。

第三の要因は、世界の資金流動性が高い点である。これまでは石油価格は需要・供給面から説明されることがほとんどであったが、現在の高い資金流動性が石油価格の高騰をもたらし、その下落を防いでいると考えている。その主役はオイルマネーではない。かつて産油国は、石油の輸出で稼いだ額と輸入との差額をオイルマネーとして国外に流していたが、最近は病院、学校あるいはインフラストラクチャーなど国内投資に充てる傾向がある。80~85%が国内に投資されており、国外に流出する割合は15~20%程度しかない。

かわって石油市場で存在感を増しているのが、先進諸国や中国をはじめアジア各国の長期運用資金である。従来は米国の国債、金への投資がほとんどであったが、最近では石油市場、先物市場、インデックスなど多様な形で石油関連に資金が投入されている。一例を挙げると、ある外資系金融機関のコモディティ(商品)インデックスには、年金ファンドを中心として300億ドル程度が投資されていると推計されている。このインデックスの商品構成は、65%が石油関連である。

石油の高価格の持続は、今年の大きなリスク要因であるが、節約、代替エネルギーの開発によって、世界経済に深刻な打撃を与えることにはならないと思う。ただ、石油価格の高騰が金利上昇の一つの要因になるということは考えられよう。