急増するファイナンシャル・プランナー
牧野 昇
当研究所所長
三菱総合研究所特別顧問
ファイナンシャル・プランナーとは何か
ファイナンシャル・プランナーという仕事が最近たいへん注目を集めている。私が日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)の理事長に就任した 10 年近く前は、FP協会の有資格会員はまだ8千名程度だった。当時、全国税理士会はすでに6万名を擁していた。現在ではFP協会は14万名に近く、金融関係としては最大規模の組織となっている。
さらに昨年、厚生労働省がファイナンシャル・プランナー技能士(FP技能士)1級・2級・3級を制定した。ファイナンシャル・プランナーが国家資格として認められたわけである。これまで日本FP協会が認定していた資格であるCFP(Certified financial Planner)はFP技能士1級に、AFP(Affiliated Financial Planner)は同2級に相当しており、CFP取得者・AFP取得者はそれぞれ所定の講習受講により無試験でFP技能士1級・2級資格が付与されることになった。
ファイナンシャル・プランナー増加の背景には、金融商品の自由化や多様化が進む中で、国民一人ひとりが自身にとって最適な資産形成を行うために、金融に関する知識に精通した専門家が求められるようになってきたことがあげられよう。
また、日本人は資格取得に積極的な国民である。日本FP協会がCFP資格をPRしたところ、CFP受験に取り組む人はどんどん増えている。
日本FP協会のCFP資格には大きな特長がある。それは、米国CFP資格認定委員会と提携しており、国際ライセンスだという点だ。日本でのCFP認定者は他の国々のCFP認定者と同等に評価され、国際的にファイナンシャル・プランニング業務を行うことができる。海外で仕事をしようという人には格好の資格といえる。
なお、ファイナンシャル・プランナーは金融設計で、実務の「売買」などについては、それに対応した国家資格等が必要である。
ファイナンシャル・プランナーの倫理
日本FP協会では、FPの認定にあたって、教育(Education)、試験(Examination)、経験(Experience)、倫理(Ethics)の「4つのE」の理念にもとづく点が特徴だ。この中の、教育と試験、経験は当然のことながら、倫理について厳格な対応を図っている。
FPは時に顧客のプライバシーにも立ち入ることから、守秘義務が極めて重要であるとともに、金融市場の健全化や透明な市場の形成においても重要な役割を担っている。日本におけるファイナンシャル・プランニングを正しく発展させるために、日本FP協会では会員倫理規定を設けており、違反した者には倫理委員会により資格の停止や取消しを含む懲戒処分が課されることになる。
日本人とアメリカ人の資産運用の違い
日本人とアメリカ人では、資産に関する考え方や行動パターンに基本的な違いがある。
日本人の個人金融資産約 1,400 兆円のうち、預貯金と生命保険で約8割を占めている。一方、アメリカはまったく逆で、預貯金と生命保険が約2割で、残りは株式・投信・債券あるいは 401kといった投資型の資産に向けられている。日本の国民は預けたら預けっぱなしであるため、なかなか市場に金が回らないが、アメリカ国民は稼いだお金を投資につぎ込む。
日系アメリカ人のロバート・キヨサキ氏が著したベストセラー『金持ち父さん』シリーズに、日本人のお金持ちとアメリカ人のお金持ちの決定的な違いが表現されている。日本人のお金持ちは、働いて稼いだお金や親から受け継いだ資産をしっかり守ることに腐心する。そのため、儲からないが安定しており、資産を失う危険がないところにお金が貯まっている。安定して利益の少ないところにお金を持っていくので、いつまでもお金は残るが、金融で金持ちになることはなく、富める人のところにいつまでもお金は留まりつづける。これに対してアメリカ人のお金持ちは、稼いだお金のほとんどを株式や投信などに回し、その結果として市場にどんどんお金が入る。したがって、投資をうまくやることによって、そこからまた新たな富豪も生れるのである。
両国民はこのように異なっているが、最近は日本人も預貯金から投資にお金を回すようになりつつあるようである。
株価の予測は可能か
資には必ず変動リスクがある。この変動をあらかじめ知ることができれば、資産を失う危険を回避しつつ、金を常に増やしつづけることができる。
それでは、株価を計数的に予測することはできるか。結論から言うと不可能である。人工衛星など物理法則に従って計算できる分野であれば正確に予測することができるが、相場のように人間の営みがからんでくるものの予測はまず当たらない。
その象徴として、デリバティブ理論で 1997 年にノーベル経済学賞を受けたアメリカの経済学者らが設立した投資会社が、受賞の翌年に資産運用に失敗して事実上破綻した例があげられる。専門のノーベル賞学者でさえ見誤るのが相場なのである。確実に株で儲けようと思えば、インサイダー情報を入手するか、シンジケートを組んで株を買い占めるしかないが、手が後ろに回る行為である。
のように考えてくると、個人の投資において一番重要なことは、‟‟安全性”に重点を置いたポートフォリオを組むことだといえる。こうした設計はファイナンシャル・プランナーの専門知識が活かされる場である。