証券市場が動いた
大場 智満
当研究所顧問
国際金融情報センター理事
7月の株価上昇と国債価格低下
7月に入って証券市場に大きな変化が見られた。一つは株価が上昇したことであり、もう一つは国債価格が下落し、利回りが1%を超えて上昇したことである。これが持続するか、短期間で戻ってしまうか、エコノミストの間でも意見が分かれている。
株価についていえば、ニューヨークの株価の動きに強く影響されていることに気付く。ただ、ニューヨークの株価が下落した時には、それに輪をかけて日本の株価は下がり、ニューヨークで上昇した時には、ニューヨークほど上がらないのが通例であった。ところが今回は、ニューヨークの株価上昇を上回る日本の株価上昇が見られた。
日本経済がアメリカに比べて回復が早いとか、成長率が高いという事実があるのならば、この株価上昇を喜んで受けとめたいが、どうも日本経済はそれほど良くなっているわけではない。『世界ビジネスジョーク集』にのせたが、政府関係者の眉を顰めさせたジョークがある。ワシントンの国際機関で流行ったもので、「日本当局の不況入りの発表はいつも2年遅く、景気回復宣言は2年早い。だから日本経済の現状はわからない。」
経済についていえば、少なくとも主要先進国間では国境はなくなってきている。ニューヨークの株価がヨーロッパや日本の株価を左右するのも当然といえる。しかし、国債価格の低下すなわち利回り上昇は、株価上昇を反映した国内の資金シフトによるものであろう。
日本とアメリカの金融資本市場の違い
アメリカの日本市場への影響を見る際に、日米の金融資本市場の違いは無視できない。
第1に、アメリカの企業は主として社債の発行によって資金を調達する。これに対して日本の企業は銀行借入れに大きく依存している。“直接金融のアメリカ”、“間接金融の日本”という大きな違いである。
おける日米間のシステムの相違を重く見ておかないと、政策判断を誤るおそれがある。日本のように間接金融の国では、デフレ懸念が強い場面での銀行の不良債権処理の「促進」は、デフレ対策ではなく、デフレ「促進策」になるリスクが大きい。
幸いにして、産業再生機構ができて銀行の不良債権と企業の不良債務とがコインの裏表であることがはっきりした。経団連、同友会、商工会議所等の企業サイドが不良債権の処理を企業再生の視点でとらえる方向になってきたのは、望ましい展開だと思う。産業再生機構に採りあげられた企業は、本業においてのびのびと企業活動をすることが可能になるだろう。ただし、メインバンクでない銀行がそれを快く受け入れるかどうかが今後の課題であろう。
経済危機を乗りきる年」になるか
1月に「2003 年は経済危機を乗りきる年」と書いた。日・米・欧とも経済危機は起きないが、不況を乗りきれるかは見極めがつかない。イラク戦争という不確定要因は消えつつあるが、石油価格の高止まりは続いている。また、SARSによる成長率の低下も不確定要因となっている。
石油価格についていえば、ユーロ高のヨーロッパは、かつてのような大きな心配をしなくてすみそうだし、第四次中東戦争以来石油依存度を減らしてきた日本も、深刻な影響を受けない。しかし、「弱いドル」下のアメリカにとっては、悩みの種となろう。
ブッシュ政権は来年の大統領選に向けて「強いドル・強いアメリカ」を志向しているようだが、現実は政治・軍事力で強いアメリカが弱いドルを持つ状態である。かつて「強いドル・強いアメリカ」を目指していたレーガン大統領に対し、米政府高官がプラザ合意の「弱いドル・強いアメリカ」をどう説明するか悩んでいたことが想起される。
スノー財務長官が、サミット前に「強いドル」の「強い」とは水準ではなく特性(使い易く、価値の保存手段として良好、信頼が厚く、人々が保有したいと願う通貨)だと説明したのは、ブッシュ政権として大統領選に「強いドル・強いアメリカ」で臨むか「弱いドル・強いアメリカ」で臨むか意見が分かれていることの証左であろう。