生活福祉研究通巻34号 巻頭言

ハーダーランディング
- ニューヨーク株式市場下落の可能性 -

大場 智満
当研究所顧問
国際金融情報センター理事長

世界経済最大のリスク

最近、新聞・雑誌等のインタビューで一番多く聞かれるのは、アメリカの繁栄はいつまで続くのか、ニューヨークの株価はいつ下落するのかということである。アメリカが世界経済を牽引してきたことは間違いないし、アメリカが崩れると世界経済が沈滞し、今までの繁栄を維持できなくなるというのも確かだろう。最近の各国の経済をみると、日本の経済成長率は1%程度かもしれないが、アメリカは4%以上、ヨーロッパは3%以上、アジア諸国も5~6%と回復し、中南米も3~4%の回復、というようによくなっている。しかし、好調な世界経済の最大のリスク要因が、ニューヨークの株価だということが気になる。だから、ニューヨーク株式市場には絶えず関心をもたざるをえないのである。

ハーダーランディング・シナリオ

また、そういう目でみると、アメリカ国内や国際機関の論調も株価に焦点を合わせている。そのなかで、最近、興味をひいたのは、IMF(国際通貨基金)が5月に出したエコノミック・アウトルックである。そこでは、「ハーダーランディング・シナリオ」が紹介されており、非常に気になる。

このハーダーランディング・シナリオが気になる理由は、まず、IMFまでもがアメリカの株価の急落の可能性を考えているということ、さらに、世界経済全体、特に、日本、およびEUへの影響がかなり大きなものになるということが示されている点にある。詳しく言えば、このハーダーランディング・シナリオは、今年の下半期、すなわち、2000年 12 月までに、ニューヨークのダウ平均株価が 25%下落し、かつ、ドルが 20%弱くなるというものである。その場合には、世界中の株価が下落する。金利については、アメリカは一転して引き下げに向かい、ヨーロッパも同様な動きをとり、日本はゼロ金利政策を維持せざるをえなくなる。

実際には、シナリオが現実のものとなった場合でも、今年の成長率は低下しない。しかし、来年はたいへんなことになる。IMFでは、今年のアメリカの経済成長率を 3.9%、来年を3%とみている。しかし、株価が急落すれば、来年の成長率は1%になると予測する。これは非常に大きい。そして同様に、日本でも来年の 1.8%が 1.2%に、ユーロエリアでは、来年の 3.2%が 2.5%になる。世界中にかなり深刻な影響がでる。この状態はまさしくハードランディングである。

OECDが昨年 12 月発表した「ソフトランディング・シナリオ」は、世界経済が軟着陸し、成長率が低下しても軽度であるというものだが、このハーダーランディング・シナリオは、世界経済にとって好ましくない。そこをどう防ぐかは大問題である。しかし、これはアメリカの株価の話なので、われわれがどうこうできないが、アメリカ国内でも、株価の急落が起こりうるという議論が高まってきている。

迫るアメリカ大統領選挙

また、アメリカ国内における関心は、株価が大統領選挙にどう絡むかということである。つまり、株価の急落が、11 月の大統領選挙の前か後かということ。これにより、次期大統領選に影響がでる。選挙前に株価が急落すれば、政権与党である民主党のゴア候補に不利に働き、共和党のブッシュ候補が戦いやすくなるといわれている。一部には、そうでもないという人もいるが、一般的には政権与党が打撃をうけるといわれている。こうして、大統領選挙、今後のアメリカ政治とも絡んでニューヨークの株価が一層注意をひきつけている。

アメリカへの資金流入問題

先のサミットでは、先進国首脳らが沖縄で一同に会し、良好な世界経済と各国の協調政策に対する評価が高かった。しかし、この状態が、年末まで続くかどうか、疑問視する見方があることも確かだ。アメリカもEUも、日本の成長率が高くなってくれれば、仮に、ニューヨークの株価が下落しても、世界経済に対する影響を最小限に押しとどめられると考えているのかもしれない。だからこそ、日本に高い期待を寄せているように見える。

しかし、日本やEUの成長率が高くなると、資金の流れが変わる可能性がある。つまり、これまでのようにアメリカに資金が多く流入しなくなる可能性がある。ドイツは、今年の前半までは直接投資、証券投資の両方でアメリカに資金が移動していたが、最近では少し変化が見えている。日本も、ここまでニューヨークの株価が高くなると、待ちの機関投資家が増えてくる。

一方、アメリカでは、日本やEUの成長率が高くなると、アメリカの輸出が伸びるから、むしろ歓迎だと考える傾向がある。資本移動に変化がでれば、今までのようにアメリカに資金が流入しなくなることが心配されるにもかかわらず、アメリカでは多くが貿易面に焦点をあてた見方をしている。

わたしはこれだけ世界的に資本の流れが大きくなってくると、やはり資本の流れに焦点をあてて世界経済の問題を考えるべきではないかと思う。この問題は、これからの指標、そして、歴史が答えを出してくれるだろう。